『西国三十三所霊場』〈滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・岐阜〉

清水寺 西国三十三所霊場 彷徨うBonJin

『西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ、さいこくさんじゅうさんしょ)』は、観音菩薩を祀る近畿地方2府4県と岐阜県の33ヶ所の札所寺院と3ヶ所の番外寺院からなる観音霊場です。

日本で最も歴史がある巡礼であると言われ、現在も多くの参拝者が訪れていることもあって、文化庁の令和元年度『日本遺産』の16件(累計83件)の一つに、『1300年つづく日本の終活の旅〜西国三十三所観音巡礼〜』として認定されました。

我が国の巡礼としては、『四国八十八箇所霊場』巡りが世界的にも有名ですが、その歴史の古さで言えばこの『西国三十三所』が元祖になるようです。
史実として、『四国八十八箇所』は室町期に開創されたという説が有力ですが、『西国三十三所』は11世紀頃にはその前身が存在していた記録が残されています(但し、三十三所が固定化し、民衆に伝えられるようになったのは15世紀半ば頃とみられる)。

ここでは、その『西国三十三所』についての必要最低限の知識をまとめ、実際に霊場めぐりをする際の簡易マニュアルとしても活用できるよう記事にしてみました。

手前味噌ながら、筆者の『西国三十三所』巡礼の際にもこのページをしばしば参照しています。よろしければスマホでの旅のお供にご活用ください。

『西国三十三所』の概要

閻魔大王からのお告げ

現在、『西国三十三所』についての公式団体は、『西国三十三所札所会』となっています(西国三十三所札所会会長は、今熊野観音寺山主の藤田浩哉氏)。

以下、その札所会による『西国三十三所』の全般的な説明の引用文を整理して表記します。

西国三十三所は約1300年の歴史を持つ日本最古の巡礼路です。養老2年(718)、大和国長谷寺の開山徳道上人が閻魔大王からお告げを受け、起請文と宝印を授かりました。その宝印を極楽浄土への通行証として観音菩薩が示された形になったのです。

巡礼路の総距離は約1000キロメートルに及び、和歌山、大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、岐阜と近畿圏を包括するように伸びています。中世日本の首都であり文化の中心地である京都に三分の一の霊場が集中していることから、観音信仰文化と巡礼文化は全国に広がりました。また観音菩薩の美しさは海外からの注目を集め、今では多くの外国人が訪れる世界的な巡礼路になっています。

『西国三十三所』巡礼の旅 ウェブサイト

上記の、開創の由緒をもう少し詳しくみてみると、718(養老2)年に大和国長谷寺の開山徳道上人が病にて仮死状態になられた際、冥土で閻魔大王に会い、「生前の悪い行いによって地獄へ送られるものが多い故、観音の霊場へ参ることにより功徳が得られるよう、人々に観音菩薩の慈悲の心を説け」とのお告げを受け、起請文と33の宝印を授かって現世に戻され、その証拠でもって人々に観音信仰、及びその霊場へ参ることをすすめられたということ。

開創からの普及は進まずも、若き法皇により再興

徳道上人とその弟子たちは苦労を重ねて普及に尽力しましたがなかなかうまくいかず、いったん機が熟するのを待つこととし、33の宝印を摂津国・中山寺の石櫃に納めます。

そしてその約270年後、花山法皇(かざんほうおう:968年 – 1008年 第65代 花山天皇が、わずか2年で皇位を退き、19歳の若さで法皇となる)が比叡山での修行を経て紀州国の那智山で参籠していた折、熊野権現が姿を現し、徳道上人が定めた三十三の観音霊場を再興するように託宣を授けられたとのこと。
法皇は、中山寺で宝印を探し出し、播磨国圓教寺の性空上人の勧めにより、河内国石川寺(叡福寺)の仏眼上人(笈摺・納め札などの巡礼方式を定めたとされる)を先達として三十三所霊場を巡礼したことから、やがて人々に広まり、現在の三十三所巡礼がここに定められたということです。
尚、三十三所各札所に残るご詠歌は、この花山法皇の詠んだものともされています。

曲折を経つつも三十三所は確立してゆく

後、三十三所の順番や縁起なども、記録した巡礼者によって様々な揺れがみられ、またその運営にも紆余曲折があったようですが、藤原摂関期前後に起こり、源平期、鎌倉期を経て、室町期にはほぼ現状のかたちに落ち着いたのは確かなようです。

観音菩薩と御朱印

「法華経」普門品第二十五(観音経)には、観音菩薩は三十三の姿に変身し、人々を救うと書かれています。いかなる困難に出会っても、常に観音菩薩は慈悲の心で見守っておられます。どうぞ観音菩薩の導きを信じ「南無観世音菩薩」とお唱えください。

『西国三十三所』巡礼の旅 ウェブサイト

『西国三十三所』の札所本尊はすべて観音菩薩で(札所本尊と寺院全体の本尊とは異なる場合もある)、そのため、『西国三十三観音』と呼ばれることもあります。

御朱印は、徳道上人が閻魔大王から授かった三十三の宝印が起源といわれています。閻魔大王の約束の証である宝印を三十三所のすべての寺院で集めると、極楽浄土への通行手形となる。また、御朱印は札所本尊の分身ですので、大切にお持ちください。

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巡礼

先述したように、巡礼は厳格に順番通り廻らなければならないわけでなく、各人の居住地や都合により、どの寺から始めても、移動手段や日程なども自由です。

他の巡礼と同様に、33所すべての巡礼をコンプリートすることを「結願(けちがん)」または「満願」と言います(巡拝はどの札所から始めても良く、またどの寺院でも結願可能。ただ、33番目の参拝札所である岐阜の華厳寺は別名「満願寺」とも言われ、ここだけの「満願之証」が得られるので、巡拝の最後はここを推奨)。

また、結願の後、お礼参りとして長野県の善光寺に詣でて、「満願成就」とするのが一般的とされています(和歌山の高野山金剛峰寺・滋賀の比叡山延暦寺・奈良の東大寺・大阪の四天王寺も対象とされている様子)。
参考まで、お礼参りは、江戸期頃に巡礼ツアーの一環として加えられた形跡があり、江戸の人々の巡礼帰りの中山道ルート善光寺参りが都合が良かったためにできたとも言われています。
昔の人々も旅の楽しみを満喫&バージョンアップしていたようですね。

札所でのお参りの仕方

前提としてお伝えしておくと、巡礼や参拝方法には様々な考え方があり「この方法が絶対的に正しい」というルールはありません。仏様や他者を敬う気持ち・心構えさえ認めれば良いとされます。
ここでは、一応、『西国三十三所』巡礼で一般的に行われる「お参りの仕方」をお伝えします。

山門の前で一礼をしてくぐる

  1. 霊場・札所(ふだしょ)へ到着したら合掌して一礼(通常は寺院の山門前)。
  2. 手を洗い口をすすぎ、身を清めます。
  3. 先ずご本尊様(通常は寺院本堂ですが、札所ご本尊様と同一の場合は次の4は省略)をお参りします(ろうそくとお線香を捧げ、「納め札」や写経など、お賽銭を納めます)。
  4. 次に札所ご本尊様(観音様)に参り、ろうそくとお線香を捧げ、「納め札」や写経など、お賽銭を納めます。
  5. 合掌し、お経(般若心経ほか)・ご真言・ご詠歌を唱えます。
  6. 納経所(のうきょうしょ)で御朱印帳に御朱印をいただきます。
  7. 御朱印帳は、2度目の巡礼からは功徳の積み重ねの証として重ね押しをしていただくのが通例のようです。
  8. 出発時に合掌して一礼します。

身支度

身支度は、本来フリーで、これも「絶対正しい容儀」があるわけではありません。
仏様は大変寛容で、これも、「敬いと心構え」があれば良いとされます。
『西国三十三所』には真言宗の寺院もあり、実際に「お遍路」姿(同行二人・南無大師遍照金剛などの墨書された出で立ちでお参り)での巡拝者もみられます。
一応、別記事の、『四国八十八ヶ所霊場』に少し詳しく身支度についてまとめていますのでご参照ください(『西国三十三所』巡礼では「お遍路」などの用語はあまり使いませんので、若干の用語の違いはあります)。

『西国三十三所』霊場 全体マップ・札所一覧

全体マップ

『西国三十三所霊場』(赤い札番印)と、同番外霊場(灰色の丸印)のマッピングデータ(Google Maps)です。
各データには宗派なども記入して参照しやすくしましたので、スマホをお持ちであればカーナビよりも有用だと思います。

『四国八十八ヶ所』ほどではありませんが、『西国三十三所』もルートの総延長としては約1,000kmになると言われます。また京都市内以外は札所同士の距離がけっこうありますので、札番に拘らず無理のない巡礼をしていただくのが無難です。
一応、1番を起点としたある程度の番号順を守りたい場合は以下のルートになるでしょうか(但し、一気にクルマで巡礼することを想定)。
※ ()内は番外札所。
1-2-3-4-5-6-7-(外:法起院)-8-9-10-11-12-13-32-31-14-(外:元慶寺)-15-16-17-18-19-20-21-22-23-24-(外:菩提寺)-25-26-27-28-29-30-33

札所一覧

番号順の札所一覧です。番外一覧も付記されています。
尚、繰り返しますが、札所1番から順番に巡る必要はなく、番外札所を後回しにしなければならないわけでもありません。

『西国三十三所』札所 1-33

  1. 那智山 青岸渡寺〈那智山寺〉(なちさん せいがんとじ) 天台宗
    和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山8
    0735-55-0001 URL
  2. 紀三井山 金剛宝寺〈紀三井寺〉(きみいさん こんごうほうじ) 救世観音宗
    和歌山県和歌山市紀三井寺1201
    073-444-1002 URL
  3. 風猛山 粉河寺(ふうもうざん こかわでら) 粉河観音宗
    和歌山県紀の川市粉河2787
    0736-73-4830 URL
  4. 槇尾山 施福寺〈槇尾寺〉(まきおさん せふくじ) 天台宗
    大阪府和泉市槇尾山町136
    0725-92-2332 URL
  5. 紫雲山 葛井寺〈藤井寺〉(しうんざん ふじいでら) 真言宗御室派
    大阪府藤井寺市藤井寺1-16-21
    072-938-0005 URL
  6. 壺阪山 南法華寺〈壺阪寺〉(つぼさかさん みなみほっけじ) 真言宗
    奈良県高市郡高取町壺阪3
    0744-52-2016 URL
  7. 東光山 龍蓋寺〈岡寺〉(とうこうさん りゅうがいじ) 真言宗豊山派
    奈良県高市郡明日香村岡806
    0744-54-2007 URL
  8. 豊山 長谷寺〈初瀬寺〉(ぶさん はせでら) 真言宗豊山派
    奈良県桜井市初瀬731-1
    0744-47-7001 URL
  9. 興福寺 南円堂(こうふくじ なんえんどう) 法相宗
    奈良県奈良市登大路町48
    0742-22-7755 URL
  10. 明星山 三室戸寺〈御室戸寺〉(みょうじょうざん みむろとじ) 本山修験宗
    京都府宇治市菟道滋賀谷21
    0774-21-2067 URL
  11. 深雪山 醍醐寺(みゆきさん だいごじ) 真言宗醍醐派
    京都府京都市伏見区醍醐醍醐山1
    075-571-0002 URL
  12. 岩間山 正法寺〈岩間寺〉(いわまさん しょうほうじ) 真言宗醍醐派
    滋賀県大津市石山内畑町82
    077-534-2412 URL
  13. 石光山 石山寺(せっこうざん いしやまでら) 東寺真言宗
    滋賀県大津市石山寺1-1-1
    077-537-0013 URL
  14. 長等山 園城寺〈三井寺〉(ながらさん おんじょうじ) 天台寺門宗
    滋賀県大津市園城寺町246
    077-522-2238 URL
  15. 新那智山 観音寺〈今熊野観音寺〉(しんなちさん かんのんじ) 真言宗泉涌寺派
    京都府京都市東山区泉涌寺山内町32
    075-561-5511 URL
  16. 音羽山 清水寺(おとわやま きよみずでら) 北法相宗
    京都府京都市東山区清水1丁目294
    075-551-1234 URL
  17. 補陀洛山 六波羅蜜寺(ふだらくさん ろくはらみつじ) 真言宗智山派
    京都府京都市東山区五条大和大路上ル東入2丁目轆轤町81-1
    075-561-6980 URL
  18. 紫雲山 頂法寺〈六角堂〉(しうんざん ちょうほうじ) 天台系単立
    京都府京都市中京区六角東洞院西入堂之前町248
    075-221-2686 URL
  19. 霊麀山 行願寺〈革堂〉(れいゆうざん ぎょうがんじ) 天台宗
    京都府京都市中京区寺町通竹屋町上ル行願寺門前町17
    075-211-2770 URL
  20. 西山 善峯寺〈よしみねさん〉(にしやま よしみねでら) 善峯観音宗
    京都府京都市西京区大原野小塩町1372
    075-331-0020 URL
  21. 菩提山 穴太寺(ぼだいさん あなおじ) 天台宗
    京都府亀岡市曽我部町穴太東ノ辻46
    0771-24-0809 URL
  22. 補陀洛山 総持寺(ふだらくさん そうじじ) 高野山真言宗
    大阪府茨木市総持寺1-6-1
    072-622-3209 URL
  23. 応頂山 勝尾寺〈弥勒寺〉(おうちょうざん かつおうじ) 高野山真言宗
    大阪府箕面市粟生間谷2914-1
    072-721-7010 URL
  24. 紫雲山 中山寺〈中山観音〉(しうんざん なかやまでら) 真言宗中山寺派
    兵庫県宝塚市中山寺2-11-1
    0797-87-0024 URL
  25. 御嶽山 清水寺〈播州清水寺〉(みたけさん きよみずでら) 天台宗
    兵庫県加東市平木1194
    0795-45-0025 URL
  26. 法華山 一乗寺(ほっけざん いちじょうじ) 天台宗
    兵庫県加西市坂本町821-17
    0790-48-4000 URL
  27. 書寫山 圓教寺(しょしゃざん えんぎょうじ) 天台宗
    兵庫県姫路市書写2968
    079-266-3327 URL
  28. 成相山 成相寺(なりあいさん なりあいじ) 橋立真言宗
    京都府宮津市成相寺339
    0772-27-0018 URL
  29. 青葉山 松尾寺(あおばさん まつのおでら) 真言宗醍醐派
    京都府舞鶴市松尾532
    0773-62-2900 URL
  30. 厳金山 宝厳寺〈竹生島宝厳寺〉(がんこんさん ほうごんじ) 真言宗豊山派
    滋賀県長浜市早崎町1664-1
    0749-63-4410 URL
  31. 姨綺耶山 長命寺(いきやさん ちょうめいじ) 天台系単立
    滋賀県近江八幡市長命寺町157
    0748-33-0031 URL
  32. 繖山 観音正寺〈仏法興隆寺〉(きぬがささん かんのんしょうじ) 天台系単立
    滋賀県近江八幡市安土町石寺2
    0748-46-2549 URL
  33. 谷汲山 華厳寺(たにぐみさん けごんじ) 天台宗
    岐阜県揖斐郡揖斐川町谷汲徳積23
    0585-55-2033 URL

『西国三十三所』番外札所

  • 豊山 法起院(ぶざん ほうきいん) 真言宗豊山派
    奈良県桜井市初瀬776
    0744-47-8032 URL
  • 華頂山 元慶寺(かちょうざん がんけいじ) 天台宗
    京都府京都市山科区北花山河原町13
    075-581-0183 URL
  • 東光山 花山院 菩提寺(とうこうざん かざんいん ぼだいじ) 真言宗花山院派
    兵庫県三田市尼寺352
    079-566-0125 URL

まとめ

長い記事をご覧いただきありがとうございました。
この記事では、『西国三十三所』についての概要や、具体的なルート情報などをまとめてみました。

同じ場所に何度行っても、季節によってその風景は変遷し、また新たな知識をもってその場所を眺めればまた違った感慨があります。

霊場めぐり…興味のある方は是非、体験されてはいかがでしょうか。
無論、本物の四国巡礼でなくとも、凡そ全国にある身近な弘法大師霊場でも良いと思います。

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